婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「大丈夫ですよ、侯爵令嬢」スカイヨン伯爵がわたしの肩を支えてくれる。「心配は無用です」
「どっ……どこが、ですか?」
「先程の王太子殿下の態度ですと、あなたに対して敵意は微塵も感じませんでした。むしろ状況を楽しんでいるようでしたので、糾弾するような事態には陥らないでしょう」
「そう、でしょうか?」
「はい。私の観察眼を甘く見ないでください」と、伯爵は微笑む。その絵画のような美しい笑顔に少しは楽になった。
「そうですね、伯爵はわたしの間諜の先生ですから。大丈夫、ですよね?」
伯爵は大きく頷く。
「戻ったら王太子殿下がどこまで知っているか調査してみましょう。そして、これからの動向も」
「はいっ、ありがとうございます!」
「今夜の我々の仕事はアングラレス王国の代表として顔を広げることです。さ、私と挨拶周りを行いましょう。少しでも貴族との繋がりを作るのです」
「分かりましたわ」
わたしは伯爵の言う通りに、今やるべき仕事に集中することにした。
それにしてもレイったら……初めから全部知っていてわたしをからかっていたのね。なんて性格が悪いのかしら。
次に会ったら嫌味の一つでも言ってやるんですから!