婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「っいっっつっっ!」
彼は声にならない悲鳴を上げながら脚を押さえる。
「チッ、折れなかったか」
「折るつもりだったのか!? っていうか、令嬢が舌打ちするな!」
「騙してたのね」と、わたしは彼をギロリと睨み付ける。
「君のほうが騙しているじゃないか。少なくとも僕は性別までは偽っていなかったぞ」
「王太子なんて聞いてない」
「僕も君が侯爵令嬢だなんて聞いていないが? 王太子を騙すなんてなんて酷い令嬢なんだ!」と、レイは大仰に両手を広げた。
「わたしは騙していたんじゃなくて、聞かれなかったから言わなかっただけよ」
「僕だって聞かれなかったぞ。そっちが勝手に高位貴族だって思い込んだんだろう?」
「だっ、だって……まさか鉱山なんかに王太子殿下がいらっしゃるなんて普通は思わないでしょう?」
「侯爵令嬢が鉱山にいるなんてもっと思わないよ」
「知ってたくせに」
「さぁ? どうかな?」
「ああ言えばこう言う」
「それはお互い様だろう」
「…………」