婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしは下から突き上げるようにレイを強く睨め付けた。やっぱり最初から知っていて、わたしをからかって面白がっていたのね。
レイは愉快そうに声を出して笑って、
「それで、侯爵令嬢様は次はどこに潜入するんだ? 教会? 商会? まさか王宮とか?」
「……どこまで知っているの?」と、わたしはおそるおそる尋ねた。
「妃教育の一環だってな。君も大変だな」
「ローラント王国にはこっちの情報は筒抜けなのね。……わたしのことは国として正式に抗議しないの?」
わたしの行動は両国間の信頼を揺るがす行為だ。
未来の王妃が間諜として直に潜り込んだのだ。最悪は処刑されるかもしれない。
レイは目を丸くして、
「え? なんで?」
「なんでって……隣国の王妃になる人間が堂々と機密情報を盗みに来たのよ? 許されることじゃないわ」
「高位貴族の間諜なんて掃いて捨てるほどいる。それをいちいち糾問するなんて面倒なことはしない。それに我がローラント王国は、それくらいじゃ落ちないよ。言い方は悪いが、それこそたかが侯爵令嬢に国家の情報を持って行かれてもね」
「随分な自信ね」
「まぁな。うちは諜報には力を入れているんで」
「帝国に対抗するため?」
「かもな」
「そう」