婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「…………」
「…………」
わたしたちはしばらくの間、黙ったまま景色を眺めた。ささくれ立った気分も夜に紛れて大分落ち着いてきた。
軽快な音楽が鳴り響く室内とは打って変わって、外は静かだった。
「君は……」ややあってレイが口を開く。「本当の髪の色は金色なんだな」
「そうね。オディオのときは茶髪のかつらを被っていたものね」
「全然印象が違うな」
「あら、それって褒め言葉? オディオの姿はわたしの間諜の先生から教わったのよ。完全に平民の少年に成り切っていたでしょう?」と、わたしはしたり顔をする。
「そうだな。事前情報を得ていなかったら危うく騙されるところだったよ。ただの栄養状態の悪い少年だ、って」
「悪かったわね」
「いや…………」レイは一拍置いてから「本来の君は凄く綺麗だよ、オディール嬢」
「えっ……?」
驚いて固まってしまった。みるみる頬が熱くなるのを感じる。
容姿を褒められたのは初めてだ。わたしは他の令嬢より少し上背があって、目つきが悪いし雰囲気が怖くて近寄りがたいとよく言われていた。
だから、綺麗だなんて……アンドレイ様からも一度も言われたことがないわ。
全身がぞわぞわしだした。褒められることに慣れていないから。
でも、ちょっと、嬉しい、かも……。
「あ……ありがとう……」
ポツリとお礼を呟いた。
一応、言っておかないとね。ま、とりあえずはね。