婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「あっ、そうだった!」
出し抜けにレイがポンの手を叩いた。
そして、いつものニヤニヤと意地の悪い表情を浮かべる。
ギクリと嫌な予感がした。ま、まだなにかあるの!?
「そう言えば、オディール・ジャニーヌ侯爵令嬢は僕にずっと面会を希望していたんだよな? ――で、なんか用?」
「はあぁぁっ!?」
再び怒りが込み上げてきた。面会を断られていた日々を思い出してムカムカした感情が蓋を開けて押し上がってくる。
なんなのよ、この人! なによ、このすっとぼけた言い方は!
この調子じゃ、絶対面白半分で拒否をしていたんだわ。なんて性悪。
レイは変わらずに小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
わたしはきっと彼を睨み付けた。
「べ、つ、に!」
そのまま踵を返して、
「ではご機嫌よう、レイモンド王太子殿下」
雑にカーテシーをしてバルコニーを離れた。