婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


「ガキか、お前は」

 不意を突いてフランソワはレイモンドの頭を手刀打ちした。

「痛っ! なにするんだよ」と、レイモンドは頭を押さえながら側近を睨む。

「あのなぁ! 好きな女の子にいたずらをするのは5歳児のガキがやることなんだよ! 馬鹿じゃねぇの!」

「は……?」レイモンドは目をぱちくりさせる。「なにを言ってるんだ?」

「だから、お前の――」

「僕が令嬢なんか好きになるわけないだろう? おかしな奴だなぁ」

「えっ!?」

 フランソワは目を剥いた。
 まさか、この王太子は自覚がないのか……?

 彼から見て、レイモンドがオディールに好意を寄せていることは火を見るよりも明らかだった。
 あんなに令嬢と関わりを持たなかった王太子が、今では侯爵令嬢を追いかけている。これを恋慕と言わずになんと言おうか。

「じゅ……重症だ…………」と、フランソワはがっくりと項垂れる。


 しかも、侯爵令嬢は隣国の王子の婚約者。
 これから多くの問題が山積していくことだろう……。



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