婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜




 ノックの合図は、

 ――トン、トトン。
 
 少し間を開けて、

 ――トントントン。

 そして最後に、

 ――トン。

 これで、中から返事があるはずだ。
 急激に緊張感が襲ってきて、心臓がバクバクしてきた。背後から冷たい風がゆらゆらと吹いてくる。


「……優美な死骸は?」

 来た。悪趣味な合言葉。
 わたしは慎重に口を開いて、

「新しい葡萄酒を飲むだろう」

 意味不明の言葉を返す。
 するとギィッと重厚な扉が開く音がして、

「どうぞ」

 どうやら合格したようだ。
 わたしはまるで外敵から隠れるようにそそくさと中に入った。
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