婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

 わたしは困惑して口ごもった。理由なんてない。ただ、アンドレイ様と…………シモーヌ・ナージャ子爵令嬢のことを知りたいだけ。

「特に、ないわ。ただ……違法競売の件が気になっただけよ」

「僕たちは依頼人に真実を教えている。その依頼人が嘘をついているのなら仕事は拒否するだけだ」

「わたし、嘘なんて――」

「君は本当に妃教育でこっちに来たのか? 残酷なことを言うが、君の婚約者は君のことを大切にしていないようだな。まるでどうでもいい安物の玩具を使い捨てているようだ」

「ちっ……ちが…………」

 息が詰まる。

 違う。違うわ。そうじゃない。
 わたしは生まれたときから彼の婚約者だから、その責務を果たしているだけよ。
 使い捨てなんかじゃ――……。
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