婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「レ、レイ、やめろ! なにを言っているんだ。侯爵令嬢が可哀想だろう」
「フランソワの言う通りだ。令嬢に対してそんな酷な言い方はない」
公爵令息と伯爵令息が慌てた様子でレイを諌めるが、彼は燃えるような視線をわたしに投げたままだ。
「僕たちは依頼人とは信頼関係がなければ仕事は受けない。オディール嬢、君はなぜ、この国に来たんだ? なにをしに来たんだ?」
「わっ……わたしは…………」
追い詰められたように、じりじりと後ずさる。
考えたくないのに、レイは容赦なくわたしの心の亀裂を覗き込んで来るのだ。
嫌………………、
そのとき、にわかに自分の中の張り詰めたものがプツリと切れた。
細くて、頼りない糸。
でも、それは、わたしだけの特別なプライドだった。
絶対に口にしてはいけない言葉が自然と身体から溢れ出す。
「わたしは…………アンドレイ様に婚約破棄をされそうなの……………………」