婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「これは、現時点でのアンドレイ王子に対する調査書だ。……恋人の令嬢のことも記されてある」
「っ…………!」
おそるおそるレイから封書を受け取った。それはただの紙なのにずっしりとして、金属のように重たく感じられた。
この中には真実が書かれてある。
カタカタと指先が小刻みに震えた。
「アンドレイ王子については現在も調査を継続している。また新たに情報を得たら逐一君に伝えよう」
「…………」
わたしは無言で頷く。もう返事をする余裕もなかったのだ。
「オディール嬢」
レイはわたしの名前を呼んで、ソファーに座っているわたしの眼前で跪いた。
「えっ……!? そんなっ、お立ちください、王太子殿下!」
わたしは慌てて立ち上がろうとするが、彼から両腕を押さえられて身動きが取れなかった。
レイの深い真紅の瞳と、わたしの淡い翠玉色の瞳が重なった。
「さっきも言ったが、僕は君の親友だ。友が辛い思いをしているのなら、助けたいと思う。だから……もし、君がそのつもりなら僕は喜んで共犯者になろう」
「それって、どういう――」
「君が逆にアンドレイ王子たちを嵌める、ということだ」