婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜



「これは、現時点でのアンドレイ王子に対する調査書だ。……恋人の令嬢のことも記されてある」

「っ…………!」

 おそるおそるレイから封書を受け取った。それはただの紙なのにずっしりとして、金属のように重たく感じられた。
 この中には真実が書かれてある。
 カタカタと指先が小刻みに震えた。

「アンドレイ王子については現在も調査を継続している。また新たに情報を得たら逐一君に伝えよう」

「…………」

 わたしは無言で頷く。もう返事をする余裕もなかったのだ。


「オディール嬢」

 レイはわたしの名前を呼んで、ソファーに座っているわたしの眼前で跪いた。

「えっ……!? そんなっ、お立ちください、王太子殿下!」

 わたしは慌てて立ち上がろうとするが、彼から両腕を押さえられて身動きが取れなかった。

 レイの深い真紅の瞳と、わたしの淡い翠玉色の瞳が重なった。

「さっきも言ったが、僕は君の親友だ。友が辛い思いをしているのなら、助けたいと思う。だから……もし、君がそのつもりなら僕は喜んで共犯者になろう」

「それって、どういう――」

「君が逆にアンドレイ王子たちを嵌める、ということだ」
< 177 / 303 >

この作品をシェア

pagetop