婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「っ…………!」
言葉が出なかった。どう答えれば良いのか分からずに、ただ視線をおろおろと動かす。
分からない。
だって、わたしは生まれたときからアンドレイ様の婚約者で、それはもう決定事項で、それ以外の選択なんて…………。
「ま、調査結果を読んでゆっくり考えるといい」
レイは立ち上がって、わたしの頭をポンと軽く撫でた。殿方にこんなことをされるのは初めてで、パッと頬が赤く染まる。
「これは君にとっての人生の分岐点だ。仮に現状維持を望むのなら、アンドレイ王子が用意した証拠は僕が全て潰してやろう。婚約破棄など初めから存在しなかったように、このまま君は王子妃になる。……もし、復讐をするのなら、僕は君と一緒に戦おう」
「………………」
まだ答えは出なかった。
レイは苦笑いをして、
「じゃあ、今日はこの話はここまで。疲れただろう? 大使館まで送るよ」
わたしは王太子殿下のお忍び用の馬車に乗せられて、帰路に就く。
帰りの間も、手にはレイからもらった調査書を握って、じっと封を眺めていた。
この中には真実が書かれてある。
知りたくなかった現実が。