婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
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「アングレラス王国の王子の婚約者が大使館に?」
「はい。なんでも王妃教育の一環とのことです」
「……で? だから、なんだ?」
レイモンド・ローラントは眉間に皺を寄せながら従者に問う。彼は現在、執務室で仕事に追われていた。王太子という身分の彼は、常に多くの仕事を抱えているのだ。
そんな仕事中に側近であるフランソワ・ルーセル公爵令息から無駄話……と、彼は思っている……を聞かされて彼は苛立ちを隠せなかった。
フランソワは軽く息を吐いて、
「そう怒らないでください。情報はなによりの財産だって殿下がいつも仰っているじゃないですか」
「そうだが……。僕は別に令嬢の情報なんて知りたくもないが」
すらすらとペンを走らせていたレイモンドの手が止まった。不機嫌そうにフランソワを一瞥する。