婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


「えぇぇぇ…………」

 頭部に集まっていた熱が堰を切ったように一気に全身に流れ出す。もうじき冬が来るのに、わたしの周囲だけ常夏に置いていかれたように燃えていた。

 ヴェルの言葉が嫌でも頭を反芻する。
「真面目な努力家」も「とっても綺麗だった」も……「凄く可愛い子」も、レイが言ったということ、よね?

 わたしのことを生まれて初めて褒めてくれたのも彼だったんだ……。

「っつつっっ…………!」


 嬉しさと恥ずかしさと……いろんな気持ちがごちゃ混ぜになって、わたしは両手を頬に当てながらその場にうずくまる。
 胸に早鐘が鳴っていた。ドキドキと全身が激しく脈打っている。身体が熱い。

 頭の中にレイの顔が浮かんでは消え、消えては浮かんで、わたしははわはわと泡を食っていた。
 彼は、わたしのことをそんな風に見ていてくれたのね。初めて「オディール」自身を認めてくれた人……。

 どうしよう……次にレイと会うとき、どんな顔をすればいいの!?
 今のままじゃ、まともに彼の顔を見られない……!


「オディール・ジャニーヌ ハ スゴクカワイイコ ソレダケガトリエサ」

「もう止めて! それ以上は心臓にっ……!」

「ピュ?」ヴェルはくるんと首を傾げる。「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」

「そうそう、それよ」

 悲しい言葉なのに、今だけは楽になった気がした。

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