婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしは案内された席に腰掛けて、近くの令嬢たちとしばしの歓談をする。皆さん、今日という日を待ちに待っていたみたいで、ドレスもヘアメイクもとっても気合を入れているようだわ。
わたしも彼女たちを参考にして、いろんなスタイルを冒険してみようかしら? レイたちもローラントにいる間だけでも好きにしたら、って言っていることだし。あとでガブリエラさんとアンナに相談してみましょう。
ざわついていた令嬢たちが水を打ったように静まり返る。いよいよ王太子殿下の登場だ。
「皆、今日は僕のためにわざわざ集まってくれてありがとう。王宮のパティシエが作った自慢の菓子をたくさん用意したので存分に楽しんでくれたまえ」と、レイの声が朗々と会場内に響く。
真面目に王太子殿下をやっている彼の姿を見るのはちょっと可笑しくて、思わずくすりと笑ってしまった。
そのとき、ふとレイと目が合った。刹那、ドキリと心臓が飛び跳ねる。彼の瞳と視線が合った瞬間に、わたしはヴェルの言葉を思い出してしまったのだ。
お、落ち着くのよ、オディール。あれはきっと社交辞令。事前にわたしの情報を入手していた彼が同情して励ましてくれただけなのよ……!