婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
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「やぁ、オディール嬢。久し振りだな」
「ご機嫌よう、王太子殿下。本日はお招きくださり、ありがとうございます」と、わたしはカーテシーをした。
王太子殿下は一通りテーブルを回ったので、今は立食形式の自由に動き回っていい時間だった。
わたしはヴェルの言葉を無理矢理頭の外に放り出して平静を装って彼と対峙する。
考えないように、考えないように……。
「先日の夜会とは雰囲気が変わったな」と、レイはわたしのドレスをチラリと見やって言った。
「えぇ、お陰さまで。その節はアドバイスありがとうございました」
「いやいや、ちょっとお節介だったね。今日のドレスは、とっても似合っているよ。……綺麗だ」
「っ……!」
にわかにヴェルの言葉が脳内に響き渡った。抑え込めようとしても、どんどん溢れ出てくる。
わたしは顔を上気させながら、
「そっ、それは恐れ多いことですわ……殿下」と、頭を下げる他なかった。
動揺が隠せない。もうっ、またからかっているの? これ以上わたしの心を乱さないだいただきたいわ……。