婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

30 異物

 その人物は最初から会場にいたのだろうか。
 見た目はただの警備兵だけど、どこか陰鬱で重苦しい雰囲気を放っていた。

 誰か他の警備兵に……駄目だわ。彼らは令嬢たちに囲まれている王太子殿下を主に見守っていて、すぐ近くにいない。
 なにより、この異物を本物の警備兵と認識しているみたい。それに呼びに行っている間に先に動かれたら困る。

 ガブリエラさんたちも今は遠くで待機しているし、まだ大事になっていない今、無駄に騒ぎ立てて王太子殿下主催のお茶会を台無しにしたらアングラレス王国としての面目が立たないし……。


 仕方ない。
 わたしは、一人でこの異物に立ち向かうことにした。大丈夫、スカイヨン伯爵から教えていただいた間諜の技術が自分にはあるわ。
 とりあえず他の警備兵やレイたちが異物に気付くまでは、なんとか自分が足止めをするのよ。
< 190 / 303 >

この作品をシェア

pagetop