婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「オディール嬢!」
レイが血相を変えて駆けて来る。
「動くなっ!!」
男の大音声の叫び声が庭園内に響き渡った。汗が滴り落ちる。当てられたナイフは今にもわたしの喉を掻っ切りそうで、肝が冷えた。
「令嬢たちの安全の確保を」と、レイが指示をする。その間も彼の視線はわたしだけに向けられていた。
「くそっ……なんでこうなったんだ……王子を狙うはずだったのにっ…………!」
男はブツブツと独り言ちていた。やっぱり、王太子殿下を狙う刺客だったのね。
これでレイに危害を加えるチャンスがなくなったと思うと、少しは安堵した。代わりがいくらでもいる侯爵令嬢なんかより、唯一無二の王太子殿下の命のほうが比べようもないくらいに重い。差し当たっては一安心ね。