婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「オディール! オディール! 死ぬなっ! 頼むから……!」
レイの声が聞こえた。閉じそうな瞼を必死で開けると、今にも泣きそうな形相の彼が必死でわたしの名前を呼んでいた。
「レイ、落ち着け。大丈夫だ、侯爵令嬢は命に別状は――」
「やっぱり、僕が令嬢と関わってしまったのがいけなかったんだ……! オディール……きっ……君までも死んでしまったら、僕は…………!」
ぼとり、と胸元に彼の頭が落ちた。
「えっ!? ちょ、ちょっと……! レ――殿下!?」
わたしは驚愕のあまり、一瞬だけ意識がはっきりと蘇る。
な……なぜ、怪我をしていないレイが先に気絶しているの…………?
そう指摘しようとした折も折、わたしの気力も限界がきたようで、ふっと意識が遠のいていった。