婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

32 令嬢嫌いの王子様②

「えっ……それって、どういう――」

「違うだろう、レイ」出し抜けに壁際に立っていたルーセル公爵令息が声を上げる。「何度も言っているが、あれは事故だ」

「事故なんかじゃないっ!」静かに震えていたレイが大音声で叫ぶ。「僕のせいなんだ……僕の……」

「大丈夫よ。落ち着いて。辛かったら、無理に話さなくてもいいわ」

 わたしは前屈みになって、レイの背中に腕を伸ばしてゆっくりとさすった。彼の体温がじわりと伝わってくる。


 しばらくして、レイが無言でわたしの手を握った。

「……君には、ちゃんと話したいと思う。親友には隠し事はしたくないんだ」

「そう」

 レイはちょっと天井を仰ぎながら一息ついて、わたしの顔に向き直した。
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