婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
鎮痛が停滞した静けさのあと、レイが少し落ち着いた頃合いで口火を切る。今の彼に必要な言葉を伝えるのだ。これはローラント王国とは関係のない第三者のわたししか言えないことだわ。
わたしは刺すような視線を彼に向けて、
「それだけ……?」
「えっ?」
レイが顔を上げて困惑した表情をわたしに見せた。
「そんなことで、未だに令嬢を怖がっているの?」と、わたしは敢えて冷淡に言う。
彼は矢庭に気色ばんで、
「そんなことって! 自分のせいで人が死んだんだ! それを、そんなこととはなんだっ!?」
「三人よ」
「はっ……?」
「侯爵令嬢のわたしの命を守ろうとして死んだ人間の数」