婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「っ……!」
レイはたじろいだ様子を見せ、息を呑んだ。わたしは淡々と話を続ける。
「一人は毒味役、二人は馬車の事故で。全て……わたしのために自らの命を捧げて亡くなったわ」
「それは……。きっ、君の場合は本当に事故だろう? 僕のほうは――」
「これから、あなたが軍隊を指揮するときに判断を間違えて何十、何百の人間が死ぬかもしれないわ。二人の令嬢もそれと同じことよ。上に立つ者が浅慮で決断を誤った。そう遠くない未来に帝国と戦うときが来たら、同じことが起こる可能性があるでしょうね」
「…………」
レイは目を見張って、わたしを見る。
「その度にあなたは、今みたいにうじうじ悩んでいるの? そして戦友である兵士までも自身から遠ざけてしまう? 馬鹿馬鹿しいわね。――わたしたち高貴な身分の者は誰かの命の上に立つ使命があるの。いちいち悲劇のヒロインぶっていたら心がいくらあっても足りないわ。もちろん死者に感謝や敬意の念は忘れたらいけないし、自身の過ちも心に刻んでおかないといけないけどね」