婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしは彼の双眸を飲み込むような強い眼差しを送る。
そして一拍してから、
「だから……慣れなさい! わたしたちは慣れないといけないのよ。それがどんなに辛くとも」
「っ…………!」
レイはまだ目を見開いて硬直したままだ。心なしかさっきまで瞳を覆っていた悲しみの雨が晴れたような気がした。
わたしは幼い子供を安心させるようにふっと柔和に微笑んで、
「それに……わたしは死なないわよ、親友。ま、お婆ちゃんになったらいつかは寿命で死んでしまうけどね」
「オディール!!」
卒然とレイがわたしに抱き着いた。
「きゃっ……レ、レイ!?」
だんだん腕の力が強くなる。わたしは彼の体温を吸い込んだみたいに全身がパッと熱くなった。