婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
彼はわたしの耳元でそっと囁く。
「君の言う通りだ。僕はとんでもない思い違いをしていたようだ。そうだ……僕は王族なんだよな。いつまでも子供みたいに駄々をこねたらいけなかった」
「そうね」
「君が気付かせてくれた。本当にありがとう」と、彼はこれまでにないくらいの眩しい笑顔を見せた。
「……いいえ、あなたのお陰よ」
「えっ?」
「わたしは、ここに来るまで婚約者のことしか見えていなかったわ。自分の世界は婚約者が中心だったの。でも、あなたや多くの人たちと出会って視野が広がったわ。こういう意見をあなたに言えるようになったのも、ローラント王国で出会った皆のお陰なの」
「それは、嬉しいな」
「ここに来て本当に良かったわ」
「僕も君に出会えて良かった。……オディールは僕の大切な人だ」
「えぇっ!?」
わたしは目を見張る。顔が爆発しそうなくらいに急激に熱を帯びた。
い……今、とんでもない言葉を聞いたきがする……。い、いえ、違うわよ、きっと。
レイは「親友」として大切だ、って思っているのよ。そうよ、そうに違いない。わたしたち同じ釜の飯を食った親友だもの。だから、大切な仲間、よね?