婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「そっ、そ、そう言えば……」わたしは恥ずかしさでたまらなくなって、思わず話題を変えた。「レイは令嬢嫌いを克服したから、どうするつもり?」
「どうするつもり、って?」と、レイは眉根を寄せる。
「だ、だから……特に令嬢が嫌いじゃなくなったら令嬢と婚姻を結ぶのでしょう? そうしたら、その……あなたの恋人の若い騎士の方とはどうするの? 愛しているんでしょう? 愛妾にするの?」
「は……?」
微かに彼の声音が低くなった気がした。……え、なんで怒っているの?
「だからっ、競売会場に突入した日に密室で長い時間二人きりだったっていう噂の騎士よ。あなたの恋人の!」
「ぶはぁっ!!」
突如、壁と一体となっていたルーセル公爵令息が吹き出した。わたしもレイも仰天して彼を見る。
公爵令息は笑いを堪えながら、
「その若い騎士とは君のことだよ、オディオ」
「……………………えっ!?」
わたしは目を剥いて、凍り付く。
レイは殿方が好きじゃなかったの?
っていうか……若い騎士って、わたしっ!?
レイはなぜか放心状態で、ルーセル公爵令息はいつまでもゲラゲラと笑い転げていた。