婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「さっきの話の続きだけど」
わたしが黙り込んでいると、出し抜けにレイが口を開いた。
彼の紅い瞳が再びわたしを捉えて、ドキリと心臓が飛び跳ねた。
「つ、続き……?」
「そう。今日、オディールに王宮に来てもらったのは……そろそろ返事を聞かせてもらおうと思って。動くなら早いほうがいい。――答えてくれるか?」
「っ……そ、そうね。分かったわ。わたしは――……」
言葉が出なかった。
返答しようにも、その先が口から出てこないのだ。パクパクと魚みたいに唇だけが上下する。
もう答えは決まっているのに、それを言葉に出すのが……怖い。
だって、口にしたらこれまで積み上げてきた自分の人生を否定することになるから。
またゼロからやり直すことに、そこはかとない恐怖を覚えたのだ。
「わたしは……」