婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
馬車はもうすぐアングラレス王国に辿り着く。ヴェルもそれを感じたのか、ピィピィと楽しそうに鳴いていた。
「オディール・ジャニーヌ ハ カワイイマジメ ソレダケガトリエサ」
「ふふっ、ありがとう。――あっ、でもアングラレスに着いたら変なことを喋らないようにね? コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエ、よ?」
「ピャー!」
もう「侯爵令嬢、それだけが取り柄」なんて気にしない。この子からそう言われても笑い飛ばせるようになったわ。
わたしには、認めてくれる人たちが沢山いるから。それが自分の原動力だ。
出発の前日、ヴェルの足首には一通の手紙が結び付けられてあった。
「健闘を祈る」――名前もなく、たった一言だけど、それが誰からかすぐに分かった。
わたしはこの手紙をお守りのように大事に懐にしまって、自身を鼓舞するために何度も読み返していた。
大丈夫、わたしにはレイがついている。
そう思うと勇気が湧いてくる気がした。