婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
◆ ◆ ◆
「なぁ、やっぱりダイヤモンドが一番いいよな?」
「仕事をやってくれないかな」
「オディールにはルビーのほうが似合うだろうか。赤が好きだって言っているしな」
「仕事をやってくれないかな」
「う~ん……だが赤は僕の瞳の色だから、自意識過剰なんて思われないだろうか」
「だから仕事をやれっつてんだろっ!!」
ドンッ――と、フランソワがレイモンドの執務机を強く叩いた。
広々とした机の左右には今日も書類が堆く積み上がっている。その高さは午前中から殆ど変わっていなかった。
レイモンドは目を丸くして、
「なに怒ってるんだ? 僕は今、指輪の石について考えていて忙しいんだが」
「そんなことは休憩時間にやれっ! アングラレスに行くまでに終わらせなきゃいけない仕事が山ほどあるんだよ! さっさと取りかかれよ!」
「指輪のほうが大事だろう」彼は大真面目に言い放つ。「僕の人生の一大イベントだ」
フランソワは頑固な主にうんざりして、深くため息をついた。
「分かったよ。じゃあ、ダイヤモンドにしろ。二人が初めて出会ったのはダイヤモンド鉱山だから思い出の品になるだろう」
「そうか……だよな!」と、レイモンドの顔がパッと晴れた。「よし、早速世界一素晴らしいダイヤモンドの手配を――」
「先に仕事を終わらせてからだっ!!」