婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「あの……お嬢様」
久し振りの我が家の様子を見ていると、侍女長が困惑した様子で恐る恐る声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「いえ……その……なんだか雰囲気がお変わりになったようですね……」と、彼女はわたしの全身を遠慮がちに見つめる。
今日のわたしのドレスは、ヴェルの鮮やかなエメラルドグリーンをくすませたような、濃い青緑の落ち着いた色を基調にしたシンプルなデザインだ。パニエも控え目にして、装飾もタックを多く寄せたスカートが特徴的なくらい。
「あら? それって褒め言葉? ローラントの方たちがわたしに似合う装いをアドバイスしてくださったのよ」
「そうだったのですね。……とってもお似合いです」と、彼女が言うと周りのメイドたちもうんうんと頷いていた。
わたしは覚えず引きつった笑顔を見せた。褒められるのは嬉しいけど、少し複雑な気分だ。
やっぱり皆、これまでのわたしのドレスは似合っていないと思っていたのね……。彼女たちに進言してもらえないくらいに、わたしは意固地になっていたのかしら?
ちょっと、今後の使用人たちとの関わりについても考え直さないといけないようね……反省だわ。