婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「……殿下の好みのドレスではないわ」
「だったら、なんなのです?」わたしは険しい表情になる。「ドレスはレディーの鎧です。わたしは、自身を一番魅力的に見えるものを身に着けたいのです」
「まぁっ! なんですか、母に向かってその口の利き方は。あなたは殿下の婚約――」
「もういい」お父様は軽く手を挙げてお母様を制止する。「帰国の報告に直ぐにアンドレイ殿下に挨拶をしに行きなさい」
「あぁ、それですが」わたしはふっと口角を上げる。「殿下には使いを送って明日伺うと申し上げましたわ」
「「オディール!」」
両親は同時に声を上げてわたしを非難する素振りを見せた。
予想通りの反応だ。ま、そうなるわよね。これまでアンドレイ様を最優先にしてきたわたしが様変わりしたんですもの。しかも、両親的には悪い方向へ。
「……長旅で疲れているのです」
「それくらい、我慢なさい」
「立場を弁えろ」
「本当にあなたは、身分しか取り柄がないんだから。厳しく育ててきたのに、なぜ淑女の基本も身に付かないのかしら?」
「隣国に行って、気が緩んでいるのではないのか。侯爵令嬢というお前の唯一の誇りも忘れたのか」
「殿下にはこのような旅で疲弊した姿ではなく、きちんと身繕いした万全の態勢で伺いたいのです! ――では、失礼します!」