婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
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馬車から王宮が見えてきた。ここへ来るとアンドレイ様にお会い出来るのが嬉しくて、いつも胸が踊っていた。
でも今は違う感情を心に抱えている。それは怒りとか悲しみとかじゃなくて、ただの「無」。好きの反対は無関心だって、言い得て妙だわ。わたしは自分に出来ることを粛々と行うだけだ。
「ご機嫌よう、アンドレイ様」
「ご苦労だったな、オディール。まぁ座れ」
王子の執務室でわたしたちは久々に対面した。
久し振りに見る彼の姿は……特に印象はなかった。「あぁ、目の前の彼が例の犯罪を行ったのね」と言ったところかしら。
金色の髪に碧い瞳の美しい顔も、過度に装飾された悪趣味な服装もナルシズムの塊のように感じて、なんだか拍子抜けだった。なんでこんな人のことを慕っていたのだろう、と疑問に思うくらい。
美術品で彩られた見慣れた風景を懐かしく眺める。でも、今日は景色が違って見えた。スカイヨン伯爵から施された間諜教育のおかげだろうか。さり気なく部屋を観察して異物を探し出す。僅かでも彼の弱みを握れるように注意深く探るのだ。