婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「久し振りにお会いできて嬉しいですわ」と、わたしはニッコリと笑ってみせる。
「そうか。元気そうでなによりだ」
「えぇ、とっても。アンドレイ様もお変わりないようで」
「まぁな」
そのとき、書棚の向こうから微かに衣擦れの音がした。そっと耳を済ませる。
……人の気配がするわ。これは十中八九ナージャ子爵令嬢ね。
呆れ返って乾いた笑いが出そうになるのを、気付かれないようにそっと呑み込んだ。きっと、これまでもこうやって二人の会話を盗み聞きしていたのでしょうね。令嬢らしからぬ悪趣味なこと。
それにずっと気付かなかったわたしも愚かだけれどね……。
彼女から盗み聞きされても別に困らないし、わたしは彼と話を再開する。
さぁ、気を取り直して、いつものアンドレイ様に従順なオディールを演じるとしますか。