婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「よくぞはるばるお越しくださった、レイモンド王太子殿下」明るい声音でアンドレイ様が口火を切った。「かねてより隣国とは厚誼を結びたいと存じておりましたので、貴殿とこうやってお会いできて嬉しく思います」
「出迎えありがとう、アンドレイ王子。私も以前より貴国とは誼を通じたいと考えていた。建国記念という輝かしい祭典に参列できて誇りに思う」
二人は固い握手をした。彼らの表層は笑顔が張り付いていたけど、どちらも偽りの仮面を被っているわね……と、すぐに察した。
アンドレイ様がパーティーでわたしの断罪を行おうとしている情報は入手していた。
彼はそれがローラント王国への宣戦布告になると分かっているのかしら?
訴える予定の相手は隣国の王太子ですもの。外交問題になるのは必至だ。
彼のことをお慕いしていた頃は見えなかったけれど、浅慮さや思い込みの激しいところがあるのを発見して、本当になんでこんな人のことが世界で一番素敵だと思っていたのだろう……って、不思議だわ。