婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「侯爵令嬢、久し振り」と、レイはこちらに目を向ける。
「ご機嫌よう、レイモンド王太子殿下」わたしは教科書通りのカーテシーをした。「ローラント王国では大変お世話になりましたわ」
思わず綻びそうになる口をキュッと引き締める。
久し振りにレイに会えてとっても嬉しくて飛び上がりそうだったけど、歓喜する想いをギュッと圧縮して意識の下に閉じ込めた。……今は我慢よ、オディール。
「とんでもない。私も有意義な時間が過ごせて良かったよ」
「恐れ入りますわ、殿下」
「私からも礼を言わせていただきます。婚約者がとてもお世話になったと伺っております。彼女がご無礼を働いていないと良いのですが」
「いやいや、謙遜はよしてくれ。貴公の婚約者は立派な淑女だな。我が国の令嬢たちにも見習って欲しいくらいだ。素晴らしい婚約者で羨ましいよ」
「そっ、そうですか……。それは良かった」
アンドレイ様は少し目を見開いて驚きの表情でわたしを見た。
この女のどこが立派だ……とでも思っているのかしら。彼からのわたしの評価はすこぶる低いので、そう思われても仕方がないかもしれないわね。