婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜



「では、私たちはこれで。式典までどうぞごゆるりと」

「ありがとう。明日は楽しみにしているよ」

 ゴルコンダの間に王太子一行を案内して、わたしたちは辞去した。
 本当はレイともっと話したいのだけれど、彼は隣国の王太子でわたしは王子の婚約者。そんなこと、許されないわよね……。

「ご機嫌よう、王太子殿下」

 名残惜しさをそっと遠くへ放り投げて、わたしは丁寧にカーテシーをした。
 本当はもっとレイと話したい。あのときみたいに手を握って欲しい。あのときみたいに強く抱き締めて欲しい――……そんな想いを胸に抱えながら静々とアンドレイ様のあとに続いた。

 駄目よね、わたしは今はまだアングラレス王国王子の婚約者。そんなことをやったら、それこそ本当に不貞になってしまう。アンドレイ様の思う壺だわ。

 でも、もうレイへの気持ちが止められそうにない。彼と離れてからこの想いはどんどん大きくなってしまう。そのうち膨れすぎて破裂して潰れてしまいそう。

 わたしは、どうすればいいの?
 彼が言っていた「君の好きなことを一緒にやろう」という言葉を、信じていいのよね……?
< 252 / 303 >

この作品をシェア

pagetop