婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「残らなくて良かったのか?」
王子執務室に戻ると出し抜けにアンドレイ様が訊いてきた。
「えっ……と、どういうことでしょう?」
わたしは平静を装いながら首を傾げた。
自分の心を読まれたのかと、心臓がドキリと跳び上がりそうになる。
「ほら、例の……」彼は声を潜める。「籠絡の仕上げだ。色仕掛けでもやったらどうだ?」
「あぁ……」わたしは軽く息を吐いて「婚約者の前でそんな愚かな行動は起こせませんことよ?」
「それもそうだな」と、アンドレイ様はふっと笑った。
殿下こそ恋人の元へ行かなくてよいのですか……と聞きたくなるのを呑み込んで、
「では、わたしは当日の最終確認がありますので失礼いたしますわ」
「あぁ、明日は宜しく頼む」
「えぇ。最高の建国記念日にいたしましょう」と、わたしは素知らぬ顔でニコリと笑う。