婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
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「今日のオディールは変なドレスだったな」レイモンドは側近と二人きりになるなりくつくつと笑った。「これまであんな妙ちくりんな格好をしてたのか。あはは」
「笑いごとじゃねぇっ!」と、フランソワは彼の眼前で大声を上げた。
レイモンドは顔をしかめながら耳を塞いで、
「は? だって、おかしいだろう? まるで幼女が着るような愛らしいドレスだぞ? 美人な彼女には合っていないだろう」
「たしかにハッキリ言って侯爵令嬢に似合ってないが――って、違う! 外で彼女にちょっかいを出すなよ!」
「別に、あれくらい周囲にバレてないだろう」
「オレにはバッチリ聞こえたが!?」
レイモンドは眉根を寄せて、
「フランソワはちょっと僕に近過ぎなんだよ。もっと離れてろよ」
「あれが適切な距離だ! いいか、侯爵令嬢はまだアンドレイ王子の婚約者なんだから馬鹿な真似はするなよ」
「分かってるよ」
「お前の双肩にはローラントの国民の命運が掛かっているんだぞ!?」
「……大丈夫だ。ちょとからかっただけだ。もう、しない。自重する」
「頼むぞ」
「はいはい」