婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
◆
「今日の晴天はまるで貴国を祝福しているようだ」
「恐れ入りますわ、王太子殿下」
わたしとアンドレイ様は国の代表としてレイモンド王太子殿下を会場へと案内する。彼も隣国代表として王族席に臨席するのだ。
例によって二人の王子が和やかに会話をしながら並んで歩き、わたしはルーセル公爵令息と一緒に後ろを歩いていた。
「昨晩はよく眠れましたか?」とアンドレイ様。
「もちろん。素晴らしい部屋を用意してくれて感謝する」
「ゴルコンダの間は初代国王のブルトン一世が趣向を凝らした特別な部屋なのです。特に天井画は我が国の国宝にもなっているのですよ」
「思わず見惚れてしまう見事な装飾だったな。あまりに凝視しすぎて首が痛くなったよ。ブルトン一世は芸術に明るかったと聞き及んでいる。たしか当時批判の多かった立体派の画家たちを保護したとか」
「えぇ、そうです。初代国王のお陰で立体派から今日に続く超芸術主義が生まれたと言っても過言ではありませんからね」
「そうだな。それによって我が国でも芸術文化が庶民にも普及して、今では多くの国民に親しまれているよ」
「ローラント王国では秋には芸術祭が行われていますね。是非、一度伺ってみたいわ。ね、アンドレイ様?」と、わたしが言うと彼は深く頷いた。
「宜しければ今秋は是非お二人を招待しよう。街中の至る場所で行われている芸術のパフォーマンスは見応えがあるのだよ」
レイは爽やかに笑っていたが、冷ややかな声音を帯びていたのをわたしは見逃さなかった。
うわぁ~なんて心がこもってない胡散臭い笑顔なのかしらぁ~……と、わたしは微かに顔を引きつらせる。そんな日は二度と来ないがな……なんて思っているわよ、あれは絶対。
……と言うか、なんでレイは怒ったようにわたしを睨んでくるの? 隣にいる公爵令息に視線で助けを求めると、顔を背けて忍び笑いをしていた。二人してなんなのかしら?