婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
だから彼女の批判を和らげるためにも、高い身分のわたしが敢えて着替えてあげたのだ。
……ま、ドレスコードが昼と夜では異なるので、もとよりイブニングドレスを用意していたのだけど。
それに侯爵令嬢側が一歩引くことで子爵令嬢の非常識さ――同時に王子の愚かさが浮き彫りになるし、一石二鳥ね。
今夜のわたしのドレスは鮮やかな赤紫色だ。本当は真紅のドレスが良かったのだけれど、まだアンドレイ様の婚約者なので彼の瞳の色の青い要素をほんの少しだけ取り入れた。
デコルテが大胆に開いたマーメードラインのドレス。裾は波紋のように広がって、歩くとゆらりと揺れて優雅に泳いでいるようだ。
「変でしょうか?」と、素知らぬ顔で訊いてみる。
「いや……」アンドレイ様は考えるように一拍置いてから「似合っているじゃないか。普段のものより、ずっといい」
「そうですか。ありがとうございます」
意外な言葉に驚きながらも、ニコリと笑ってみせた。