婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしはアンドレイ様の側近が掲げている書面をまじまじと見つめてから、
「たしかに、こちらはわたしが書いたものですわね。――で、それが、なにか?」
小馬鹿にしたように笑ってみせる。絶体絶命の侯爵令嬢の想定外の不遜な態度に、会場内の熱気が上がった。
追い討ちをかけるように今度はレイが、
「そうだな。私が侯爵令嬢と話し合った内容が書かれているな」と、涼しい顔で言ってのけたのだった。
「……では、両人とも認める、と言うのだな」と、アンドレイ様が低い声音で言う。
「わたしが書いたということは、ですが」
「あぁ。これは二人で話した内容だ、とは」
「見ろっ! やはり二人は――」
「たしかに」突如レイがアンドレイ様の勝利宣言を遮るようにホール中に通る声で言い放った。「私と侯爵令嬢は今後起こり得る戦争についてのシミュレーションを何度も話し合った。ここに書かれているのはその一部だな」