婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
またもや動揺の輪が広がる。貴族たちはどよめいて、思わぬ反撃にアンドレイ様も子爵令嬢も目を剥いて硬直していた。
「アンドレイ様、こちらに小さく『案1』と書かれてあるでしょう?」わたしは小馬鹿にするように笑う。「これは王太子殿下と意見交換をした記録の一部ですわ」
「う……嘘だ! お前は俺に――」
「あら、それこそ証拠はあるのですか? わたしがここに書かれている内容が王太子殿下を籠絡して得た情報で、なおかつ戦争計画に利用しようと目論んでいるなんて……どこにわたしの筆跡でそう書かれているのでしょうか?」
わたしはニッコリと余裕綽々に微笑んだ。
そんなもの、どこにも存在しないからだ。
アンドレイ様は機密情報に添えてあったわたしからの手紙を全て燃やしている。文章の中に何度も「アンドレイ様のご指示通りに……」と、書かれているからだ。
もし、これが露見したら戦争計画を立てているのは彼だと見做される可能性が高い。だから証拠隠滅したというわけだ。
今回はそれが仇となったわね。
「そっ……それは……」
案の定、彼は口ごもった。
今度はレイが畳み掛けるように言う。