婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「帝国の脅威が近付いている今、近隣諸国が手を取り合って対抗しなければならない……と、私と侯爵令嬢は話していた。私たちは、帝国の動きを予測してどう対応するか数々のシミュレーションを行っていたのだ。彼女は熱心な勉強家で、軍事に関しても明るいのでとても有意義な議論ができたよ」
「その一部をアンドレイ様に紹介するために記したのですが、どうやら真意が伝わっていなかったようで残念ですわ。『案』という意味の注釈を付けるべきでしたわね」
「お前……!」と、アンドレイ様が憎々しく睨み付けてくる。
「今回の訪問も国王陛下と対・帝国包囲網について話し合いをしたかったのが目的の一つだ。もっとも、一番の目的は貴国の建国記念を祝いたかったのだが……どうやら私は貴公からは歓迎されていないようだな」と、レイは肩をすくめた。
「それに、こんな紙だけではわたしと王太子殿下が不貞を行ったという証拠にはなりませんわ。どこをどう見れば、わたしたちが懇ろな間柄だと読めるのです?」
「そ……それはっ、このような機密情報を王太子から直々に手に入れるには、そういう関係にならなければ無理筋というものだろうっ!?」
「はぁ……」わたしは呆れたように大きくため息をついて「――で、この『軍事シミュレーション』を行うのに閨をともにするとでも? 意味が分かりませんわね」
「だっ……ダイヤモンド鉱山の情報は!?」
「あれも、数ある軍事作戦の一つですわ。あそこは確実に拠点となるべき場所ですから」
「攻め込まれた際のシミュレーションの一つだな。数字も、全て仮のものだ」と、レイは薄ら笑いを浮かべる。