婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「……出鱈目ではありませんわ。既に法院には証拠を揃えて訴えております。目下、精査中ですが、彼らの提示した資料を見るに事実のようですわね。皆様、寝る間も惜しんで一生懸命努力をしてきた結果を、権力を笠に着た王子殿下から略奪され、その身分故に泣き寝入りするしかなかった……と、心底悔しがっておりました。これから国の頂点に立つお方が、このような暴挙を起こすのはいかがなものかと。臣下として恥ずかしいですわ」

 優美な死骸は優秀だ。隣国の事情まで隈なく調べ尽くしている。それは国内の貴族が知らないことまでも、だ。

 同時に恐ろしくもなって背筋が凍った。
 レイは帝国と渡り合うために個人の諜報機関を組織したと言っていた。即ち、帝国という巨大な化け物に対抗するには、一国の王子がここまでやらないといけないのね……。

 それに比べて、我が国は王子と侯爵令嬢の婚約破棄騒ぎで、我ながら幼稚で情けない。

 わたしはアングラレス王国に戻ってから、リヨネー伯爵令息らが調べたことの裏を取った。侯爵令嬢という身位と王子の委任状がこれほど役立ったことはなかったわ。両親とアンドレイ様には感謝しなくちゃね。
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