婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしが合図をすると、王宮の官吏がいくつかの書簡の入った箱を丁寧に持ち上げながら、こちらへ運んで来る。わたしはビロードが張られた文箱から一通の手紙を取り上げて、おもむろに広げた。
「お前……まさか!?」
「ちょ、ちょっと! まさか、あれ……!?」
にわかに二人は焦り出した。
わたしは彼らを黙視して、訴えかけるように全体をゆっくりと見回す。
「ちなみに、こちらの手紙は筆跡鑑定も行っているわ。では、これより拝読いたします。――愛するアンドレイ……」
少し読んだところで眉をひそめて黙り込んだ。
ざわつく貴族たちを困ったように少し見やってから、
「あら、どうしましょう。下品過ぎてわたしには読めないわ」
「私が読もう。貸してくれ、侯爵令嬢」と、レイが手紙をひょいと取り上げた。
そして、文面を見るなり眉根を寄せて大仰に嘆く。
「困ったな。男の私でも憚られる内容だ。なんて品のない!」
「では、僭越ながらあたしが……」
いつの間にか隣に来ていたガブリエラさんが、王太子の持つ手紙を摘んで大声で朗読を始めた。