婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
わたしは二人を見なかったように素知らぬ顔で続ける。
「では、ガブリエラさん。二通目、どうぞ」
「愛するアンドレイ――」
「止めろおぉぉぉぉぉっ!!」
顔を真っ赤にさせたアンドレイ様がガブリエラさんに飛び込むように手を伸ばす。
しかし彼女からさっと避けられて、つんのめった。どっと笑い声が起こる。
「くっ……お前ら……俺を誰だと思っているんだ。この国の王子だぞ……俺は次期国王なんだ……!」
彼の恨み節は笑い声に掻き消された。
「どうです、殿下? これでも子爵令嬢はあなたの恋人ではない、と?」
わたしは倒れ込んだアンドレイ様の眼前に威圧するように堂々と立って、冷たく見下しながら言った。彼はぷるぷると身体を震わせながら、今にも襲ってきそうな苛烈な悪意が内包された視線を打ち当ててくる。
そしておもむろに上半身を起こしてから、目を剥き出しにして叫んだ。
「調子に乗るなよ、このクソ女がぁっっっ!!」
彼の地鳴りのような叫び声がホールの外まで響く。
「つまらねぇんだよ、お前みたいな女はっ! 侯爵令嬢だかなんだか知らないが、いつもいつも澄ました顔をしやがって! 俺はなぁ、初めて会ったときからお前なんか大嫌いなんだよっ! ブスだしグズだし、身分しか取り柄のない馬鹿女が! それを王子の俺が相手にしてやったのだから光栄に思えっ!!」