婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜



 わたしは軽く息を吸う。
 少しの間だけ瞳を閉じた。襲いかかるように過去の記憶がどっと胸に押し寄せてくる。

 侯爵令嬢として生まれた自分は、生まれたときから王子と結婚することが決められていた。
 それが当然だと思っていたし、そのために努力するのも当たり前だと思っていた。
 両親やアンドレイ様がわたしを叱責するのも自然なことだし、毎度のように彼らに怒られる自分が一番悪いのだと思っていた。

 わたしさえ、我慢をすればいい――心の奥底で、そう考えていた。

 アンドレイ様がわたしの世界の中心だったし、彼はわたしの全てだった。

 ……でも、それは間違っていたのね。
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