婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
◆
「よく言った、オディール」
「これで任務完了、ね?」
「あぁ。君は最高の間諜だよ」
「あら、ありがとう」
「特別に優美な死骸に入れてあげよう」
「結構よ」
わたしとレイは周囲に気付かれないように密かに目配せをして、くすりと静かに笑った。
そして素知らぬ顔で左右に別れて、それぞれが社交に励む。
まるで王子の失態はなかったかのように、建国記念パーティーは静かに再開された。
貴族たちはさっきの断罪劇の話題で持ち切りだったけど、今夜は祝福すべき建国記念日。国王陛下の判断で、何事もなかったかのように、パーティーは粛々と執り行われた。国の節目の日にあのような無様なことはあってはならないからだ。
わたしも見せ物の一人なのだろうけど、臆せずに堂々とダンスや会話を楽しんだわ。
両親とは結局一言も言葉を交わさなかった。お母様がショックで倒れてしまって、お父様と先に帰ることになったのだ。
わたしたち家族はお互いに正面から向き合わなさ過ぎた。もう、修復は不可能なところまで来たのだと思う。
だから両親も、わたしも、前を向いて……別々の道を進むしかないのだ。