婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「オディール オディール」

 ヴェルが飛んできて、迷わずわたしの肩に乗る。

「あら、あなたにはわたしが分かるの?」と、わたしは目を丸くした。

 動物の本能というものかしら? 簡単に正体を見破られてちょっとショックだけど、嬉しくもある。
 やっぱり一番の親友はわたしのことが分かるのね。

「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」

「そうね。でも、今は平民のオディオなのよ。分かる? オ、ディ、オ」

 ヴェルはくるんと首を傾げて、

「オディオ……オディオ…… オディール! オディール!」

 バタバタと楽しそうに翼を動かした。

「もうっ、ヴェルはわたしのことをなんでもお見通しね。――じゃあ、良い子にしているのよ? くれぐれも大使館から出ないようにね。スカイヨン伯爵は怒ったら怖いんだから。あなたなんてペロリと食べられちゃうわよ?」

「ピャー!」

 ヴェルはもう我が物顔で大使館内を飛び回っていた。大使館の方たちも彼を可愛がってくれて、今ではわたしよりもここに馴染んでいるようだ。

 でも、最近は目を離した隙に、大使館から出て外に遊びに行こうとするので油断できない。彼は好奇心旺盛だからすぐにどこかに行っちゃうのよね。

 念のため彼の足にはジャニーヌ侯爵家の紋章をあしらった足輪を着けているので攫われてしまうなんてことはないと思うけど、他の貴族が飼っている鳥とトラブルを起こさないといいけど……。意外に喧嘩っ早いのよね、この子。

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