婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「間諜の話によると、侯爵令嬢は名目上は外交の勉強のために大使館勤務をすることになったそうなのですが、実のところ王妃になったら国の諜報部門の統括を任せたいと王子から言われているそうです。なので今回は令嬢自身に諜報活動の実践をさせたい……と」

 フランソワは淡々と報告しつつも、この荒唐無稽な話に眉を曇らせる。

「……なにか裏があるな」

 レイモンドの眼光がにわかに鋭くなった。
 フランソワは深く頷いて、

「はい。間諜もさすがに違和感を覚えたようで、現在追加調査を行っております」

「頼んだぞ。そもそも、いくら妃教育とはいえ婚姻前の令嬢を他国に送るなんて信じられん……」

 まだ爵位を継いでいない令息が学問を修めるために他国に留学をすることはよくある話だが、未婚の令嬢が外国に一人で長期滞在をするなんて貴族社会ではまずあり得なかった。

 令嬢には純潔が求められる。だから、僅かでも疑われるような行動を取ってはいけないのが、貴族社会の不文律だ。

 それに、婚約者を大切にするのは当然のことではないだろうか。アンドレイ王子は不誠実過ぎるのではないのか……と、レイモンドは静かに憤る。

「間諜には新たな情報が入り次第、逐一報告をさせます。侯爵令嬢が潜入している件はまだ鉱山の管理人には伝えておりませんが、監視など付けますか?」
< 37 / 303 >

この作品をシェア

pagetop