婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「いや…………」
レイモンドは少し思案してから、
「僕が直接見に行こう」
「はあぁっ!?」フランソワが素っ頓狂な声を上げる。「なに言ってるんだ、お前」
思わずレイモンドの親友としてのフランソワに戻ってしまった。
「僕も坑夫として潜入する。そこで彼女と接触してみよう。上手く行けばなにか情報を引き出せるかもしれない」
「いやいやいや! お前は王太子なんだぞ!? そんな危険な真似をさせられるか! それに、仕事は? 今日もこ~んなに残っているんだぞ!」
フランソワはドン、と王太子の机を叩いた。すると、堆く積み上がっている書類の山がグラリと揺れる。
レイモンドは一瞬だけ顔を引きつらせるが、すぐに気を取り直して微笑む。そびえ立つ書類の山は見ないようにして。
「昼は坑夫として働いて、夜は王太子の仕事をする。悪いが、鉱山内に秘密裏に僕専用の書斎を作ってくれないか。もちろん、潜入の件も管理人以外には他言無用だ」
「そんなの駄目に決まっているだろ! 国王陛下に見つかったらどうするんだ?」
「仕事が滞りなく進んでいれば問題ない。昔から父上は結果を出せば文句は言わないからな。――じゃ、頼んだぞ、フランソワ」