婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
――とは言ったものの、レイモンドは侯爵令嬢のことが気になっていたのは事実だった。
だって、高位貴族が平民の振りをして、危険な鉱山に?
そんな令嬢、見たことがない。
だから少しだけ……ほんの少しだけ彼女に会ってみたいと思ったのだ。
「はいはい。ま、お前が令嬢に興味を持ってくれて俺としても一安心だ。一部からは王太子殿下は男色の気があるのではって噂されているからな。――よし、これが終わったら婚約者候補たちを集めて王宮でお茶会を開こう。それが今回のお前の奇行に付き合う条件だ」
「はっ……」レイモンドはみるみる青ざめる。「それは……ちょっと…………」
「拒否をするのなら俺は協力しない」と、フランソワは強気で跳ね返す。長年レイモンドと付き合いのある彼は主の扱い方も手慣れたものなのだ。
レイモンドは悔しげな表情を浮かべて、
「さっ……三十分だ…………」
妥協した。